こんにちは。うりぼうです。うりちゃんて呼んでください。
これは私が初めて御岳山に行った時の話です。
今から思うと殴ってでも止めたくなるような危険と失敗だらけの山歩きでした。
同じ目に遭わないよう参考にしてもらえると嬉しいです。
初めての奥多摩
何度か高尾山へ登り、山道をあるくことが楽しくなってきたころの話です。
そろそろ他の山も歩いてみたい、と思うようになりました。
高尾山と同じくらいの高さの山なら大丈夫だろう、と初心者ながらの自信もつき、書店に行って「初心者向け」の文字が書いてあるような本をいくつか手に取り、関東近郊の低山が写真付きで載っている本を1冊買ってきました。
難易度や、簡単な地図や、見どころなどが山ごとにまとめられている本をパラパラとめくりながら、次に行く山を選びました。
(次は、奥多摩の御岳山にいってみよう)
本に載っている通りに電車やバスを調べて、高尾山と同じく山頂近くまでケーブルカーで行けることもわかりました。
それだと高尾山よりも全然物足りなさそうだな、と思い、御岳山から片道1時間ほどで隣にある日の出山へ行っても時間的には余裕だろうと、御岳山~日の出山を歩き、さらに1時間半ほど下って日の出つるつる温泉へ至るルートに決めました。
高尾山と同じ感覚でいたため、相変わらず履きなれているスニーカーを履き、服は普段着、普段使っている安物のリュックに500mlペットボトルの水1本、財布、カロリーメイト1箱、そして数日前に買った山の本1冊、という、なんとも身軽ないで立ちで、電車を乗り継いで、いざ奥多摩へ。
少しずつ山が近くなってくる景色にわくわくしながら、降りる駅を何度も確認していました。
いざ、御岳山へ
JR青梅線の御嶽駅で電車を降りて、バスとケーブルカーを乗り継ぎ、御岳山へ。
山頂へは、お土産屋さんや宿坊の間の舗装路をただただ歩いていくだけで、観光気分であっという間に到着してしまいました。
山頂には武蔵御嶽神社という神社があり、お参りをして、おいぬ様(狼)の絵の彫られた登山お守りを一ついただきました。
なんとなく、これで大丈夫、と心強く感じました。
さて、日の出山まで1時間か、さらにその先日の出つるつる温泉までは計2時間半、と時計を見ると、ちょうど午後2時でした。
ここまででもいろいろつっこみどころがあるかと思いますが、もう少しお付き合いください。
木漏れ日の中の山道を日の出山に向けて、快調に歩き始めました。
道ははっきりとしており、迷うようなこともない1本道です。宿坊への分かれ道には標識もあって親切だなぁ、なんてのんびりと歩いていました。
なにあれ…クマ?!
20分ほど歩いていると、登山道横の斜面の下の方に、なにやら黒い塊が見えました。
距離は30mほど、おそらく両手で抱えるほどの大きな物体です。
「なにあれ…」と思わず声が出ていました。すると、その大きな塊が転がるように斜面を駆け下りていきました。
クマ?!イノシシ?!
突然のことで若干パニックになりながらさっきのお守りのことを思い出し、お守りについていた小指の先くらいのサイズの小さな鈴を振ってみます。
(これじゃだめかも…)
幸い、向こうが先に気づいて斜面を降りて行ってくれたので今は大丈夫ですが、この先どこかで他の動物と遭遇しないとも限りません。
不安になりつつも、日の出山へと急ぎました。
日の出山へ無事登頂、この後どうする?
平日の午後3時過ぎ、他の登山者ともほとんどすれ違いませんでしたが、ほどなくして日の出山山頂へつくと、意外にも数名の登山者がいました。
山頂に「日の出つるつる温泉臨時休業のお知らせ」という紙が貼ってありました。
(温泉が休みなら、御岳山へ戻るしかないか…)
と山頂にあった大きな地図を見ていたところ、つるつる温泉とは違う方向へ下っていく女性3人組の姿が見えました。
(あの人たちはどこへ下るんだろう)
山頂の地図を見て確認すると、山道を抜けていった先に「吉野梅郷」という梅の公園があり、その先に日向和田(ひなたわだ)という青梅線の駅があるようでした。
(よし、来た道を戻ってもつまらないし、またさっきの黒い物体がいるかも。どこかの駅に出られるならそっちの方がいいや)
安直極まりない発想でしたが、当時の私は本当に全てを甘く考えていました。
恐怖と不安
午後3時、日の出山を出発です。
体力的にはまだまだあり余っています。水はペットボトルに7割ほど残っており、カロリーメイトにはまだ手をつけていません。余裕だな、と高をくくっていました。
後ろをついていけば大丈夫だろう、と思っていた女性3人組はおしゃべりをしながら歩いていたこともあり、ペースが極端にゆっくりでした。案の定あっという間に追いついてしまい、道を譲られてしまいました。
内心こまったな、と思いつつも、「地図を持っていないので後ろをついていかせてください」なんて初対面の人たちに言えるわけもありません。ましてや、普段着にスニーカーという超軽装です。恰好だけでも完全にやばい人です。
先達者を失った私は、まだはっきりしている登山道だけを頼りにどんどん山を下っていきました。
途中で、送電線の整備に使っている道なのか、突然アスファルト舗装路が交差する場所に出ました。ちょうど整備に来てたらしき作業服の人たちと、車も見えました。ここからアスファルトの道を歩こうかな、と一瞬考えたのですが、まだ行ける、と登山道への謎のこだわりが捨てきれず、結局そのままアスファルトを横切って登山道へと進みました。
その辺りから、徐々に山道が細くなってきたような気がしていました。でもまだはっきりはしていました。
黙々と歩き続けていると、ふいに前から男性が現れました。内心飛び上がるほど驚きましたが、山で人とすれ違う時は挨拶をするんだった、と本で読んだ知識を思い出して、男性に「こんにちは」と声をかけました。
男性は返事をせず、目も合わせずにすれ違っていきました。
そういう人もいるのか、とちょっとだけ残念に思いましたが、それよりも、たった今すれ違った男性の恰好を思い出して急に怖くなりました。上半身はぼろぼろのネルシャツ(ボタンがないのか前が開いており、その下は裸でした)、同じくぼろぼろのグレーのスウェットのズボン、手にはコンビニの小さなビニール袋ひとつ、足元はスリッパのようなサンダルに裸足、というなんとも不思議な恰好でした。マイナーな登山道で出会うには違和感しかない恰好でした。まあ、自分も人からそう見えていたかもしれませんが…。
なんといっても違和感を覚えたのが、時間帯です。その時はすでに午後4時をまわっており、今から登っていくのはどういうことだろう、日の出山には店や自販機などもなく、体を雨風から避けられるようなところも当時はありませんでした。
自販機などがある御岳山まで行くにしても、登りではここから2時間以上、午後6時をまわってしまうでしょう。
すでに山の中では日の光も入りづらくなってきており、日が暮れてしまったら真っ暗闇になることは想像に難くありません。
そんなことを考えながら、さっきの人が気が変わって追いかけてきたらどうしよう、という恐怖も加わり、だんだん心細い踏み跡になりつつある登山道を歩くペースが勝手に上がり始め、ついには駆け出していました。
どんどん薄暗くなっていく山の中、地図もライトも持たず、食料も水もほとんどないことに、初めて恐怖を感じました。低山ならではの鬱蒼とした森が続く、クマやイノシシ、カモシカなども生息する奥多摩のマイナーな登山道です。携帯電話は持っていましたが、日の出山を過ぎたころからずっと圏外の状態です。
適当に道だけを辿ってきたので、自分がどこへ向かっているのかもわからず、もはやこの先に駅なんてあるのだろうか、山道から抜けて人がいるようなところに辿りつけるのだろうか、と泣きたい気持ちになりながら、必死で足元の道を見失わないように歩き続けました。道の真ん中に動物のフンがあったりして、獣道に入り込んでしまったのかと思いながらも、登山道と信じて必死で歩きました。
ドタドタと歩く自分の足音と、同じく自分の荒い息遣いに混じって、時折少し離れたところからガサガサと音が聞こえてくるような気がします。
風が入らない低山の森の中なので、他に音がする原因といえば…また野生動物?そんなことを考えては、必死で不安な気持ちを振り払いながら先を急ぎます。
唐突に現れた人里
ふと、目の前に突然緑色のフェンスが。数時間ぶりに人工物に出会いました。フェンスの向こうは木が刈り取られてあり、芝生が敷いてあります。ゴルフの打ちっぱなしのようです。
そのままフェンス沿いを歩いていくと、急にアスファルトの道と民家が数件現れました。
山道は唐突に終わり、森を抜けた頭の上には夏の終わりの夕方の青空がまだまぶしく残っていました。
時計を見ると、午後5時を少し過ぎたところでした。
(助かった…でも急に人工物っていうのも不思議な感覚だな…野生動物ってこんな気持ちなんだろうか…)
となんとも微妙な気分で少し歩いていると、
「吉野梅郷」
と書かれた案内板がありました。どうやら、一応予定していた場所へまっすぐに降りてこられたようです。
張りつめていた心と体が一気に緩み、その場で座り込んでしまいたい気持ちでしたが、駅まではどうもあと2kmくらいは歩かないとならないようです。
ギリギリの気力を保ちながら、なんとか駅までたどり着きました。
そのあとはどうやって家まで帰ったのかはほとんど記憶にありません。
いろいろなことを振り返って、反省
翌日、起き上がれないくらいの全身筋肉痛に加え、必死の下山中にひねったのか、足首が少し痛みました。
職場の登山経験者の先輩に、昨日山へ行って筋肉痛なんです、という話をしたところ、どこに行ったのかと聞かれたのでかなり曖昧にスタート地点とゴール地点だけを答えました。(自分でもどこだかわからなかった、とは言えず)
すると、先輩が急に真剣な顔になり「よく始めたばかりで一人でそんなところに…それに、よくいきなりそんな距離歩いたね」と言われました。
「え?ああ、ははは…」と不自然に言葉を濁してそれ以上その話はしませんでした。下手につっこまれて怒られるのは面倒だと思い、そそくさと家に帰ってから一人で調べました。
今の自分が当時の自分を見かけていたら、全力で止めていたと思います。
御岳山から吉野梅郷までは、距離にして10kmほど、時間にして休憩なしでも少なくとも5時間はかかる距離です。途中で日が暮れ始めたことや、不思議な人物との遭遇でかなり焦って駆け下りたこともあり、通常より早いペースで降りてきてしまい、必要以上に体にきてしまったようでした。足をひねったことにも気づかずに走り続けていたとは…本来であればかなり危険なことだらけでした。
この日に恐怖を覚えながら学んだことは、
- 下調べをしっかりすること
- 装備を整えること
- 無理はしないこと
の3つです。
たった1回の奥多摩でしたが、下手をしたら遭難していたと思います。
というか、今改めて思い返してみると、ほぼ遭難していたと言ってもよい状態でした。
教訓になることがたくさんありすぎましたが、本当に運よく生きて帰ることができてよかったと思っています。
この時から、ようやく装備や地図などを集め始めました。また、本やインターネットを参考に、危険をできるだけ回避できるような登山を目指して学び始めました。
これから登山を始めるあなた、少し山歩きに慣れてきたあなたも、このような山歩きは決して真似しないでください。
わからないことは、このサイトや他のサイトを参考にして、たくさん準備してから行ってくださいね。
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