こんにちは。うりぼうです。
今回は、暑い夏に涼しさを求めてできるだけ高いところへ。
岐阜県と長野県の境にある、中部山岳国立公園の乗鞍岳へ初めて行った時の話です。
前日は飛騨高山へ
関東からは、はるか遠い岐阜。
どんなに早く出てもその日のうちに登山をすることは不可能なので、前日に近くまで行くことにします。
乗鞍岳は平成15年からマイカー規制が始まり、現在はシャトルバスで標高2700mの畳平まで向かうことができます。
シャトルバスの出る飛騨高山温泉郷に宿を取り、夕方に到着しました。
バスがついた時間にはターミナルのお土産屋さんやレストランは全て閉まっており、トイレの表示が薄暗い中にぼうっと浮かんでいました。
時間はまだ19時過ぎで、夏の長い日が暮れたばかりでしたが、バスターミナルから見た街は寝る前の準備を始めているような雰囲気でした。
予約してあった宿の場所を探して、ターミナルからすぐの宿にチェックインしました。
ザックを背負ったままモタモタと登山靴を脱いでいると、「うりぼう様でしょうか」と受付の人が声をかけてくれました。
予約していた客の中で最後の到着だったようです。
素泊まりだったので、明日の朝は7時前にチェックアウトしたいことを伝えました。
「わかりました。その時間は朝食の準備時間で誰も受付にいられないかと思いますので、ここに鍵を置いておいてください。どうぞお気をつけて」
と、一足早く出発の挨拶をもらい、部屋に向かいました。
荷物を置いてから宿の温泉に入りに行くと、大勢が談笑している声が大広間のあるらしき方向から聞こえてきました。
(平日でもけっこう泊っているんだな。夏休みシーズンだもんな)
温泉には、最初から最後まで自分ひとりでした。
広い空間を独り占めできてラッキーでしたが、さっきのたくさんの人たちはいつお風呂に入るのだろう、と不思議でした。
あとで気づいたのですが、もう一つ大きめの浴場があったようでした。
初めての土地、初めて使う交通機関などに緊張の連続だったこともあり、ゆっくりと温泉に浸かることができて体と心が一気に緩みました。
(明日はついに3000mを超える場所へ登るんだな)
と思うと、ワクワクしてきます。
温泉を出て、薄暗い階段を上って部屋に戻りました。
少し開けてあった窓からのひんやりとした空気が部屋を満たしていました。
標高1200mほどの温泉街の夜空はすっきりと晴れて、星がたくさん輝いていました。
シャトルバス
エアコンなしで眠れる涼しい夜のおかげで、久しぶりに深く眠れました。
窓の外を見ると、青い空と大きな山々が目の前に迫るように並んでいます。
顔を洗って身支度を整え、コーヒーを飲みながら天気予報の確認をします。
今日は一日天気が良さそうです。
朝食に、行きの高速バスが寄ってくれたサービスエリアで買っておいたパンを食べます。
6時半、無人の受付にそっと鍵を置いて、心の中でお礼を言って宿を出ます。
歩いてすぐのバスターミナルへ行き、時刻表を確認してバスの往復チケットを買います。
バス乗り場には数人の乗車客が並んでおり、みなわりと軽装でした。
バスで標高2700mまで連れて行ってくれることもあり、終点の畳平バスターミナルの周辺を散歩するだけの人もいるのでしょう。
畳平には、バスを下りてすぐの距離に高山植物のお花畑があるとのことです。
お土産屋さんや食堂などもあるそうなので、昼食は下りてきてから食堂で取る予定です。
ザックには非常食と、歩きながら食べられる小さなおやつを何種類か入れてきました。
大きなバスが到着し、運転士さんにチケットを見せて、ザックをバスの荷物室に預けてからバスに乗り込みます。
席は自由だったので、私を含めて10名にも満たない客はそれぞれ思い思いの場所へ座りました。
程なくしてバスは出発し、途中のターミナルでまた客を乗せて、畳平へ向かいます。
気持ちの良い朝の光を浴びながら車窓から森を眺めていましたが、バスはやがてぐんぐんと高度を上げていきます。
高い木が少なくなって、あっという間に森林限界をバスで超えてしまいました。
それどころか、雲が眼下に広がっています。
霧ではなく、正真正銘の雲です。
遠くの大きな山々が雲から頭を出している光景に、心が躍りました。
畳平に到着し、バスを降ります。
気温差に驚き、慌ててザックからフリースと防風パーカーを取り出して着込みます。
少し離れたお土産屋さんの前に温度計があり、「現在10℃」の表示がみえます。
どうりで寒いわけです。
関東では真冬の日中の気温です。
トイレを済ませ、体が冷え切らないうちに歩き始めることにします。
乗鞍岳へ
歩き始めてすぐに、高山植物のお花畑の横を通過しました。
(下りてきたらゆっくり見てまわろう)
寒さで冷たくなり始めた手の先が、歩き始めてだんだんと温まり始めます。
しかし、ときおり吹いてくる風でまた体温は奪われていきます。
(2700mでこれなんだから、3000mはもっと寒いんだろうな)
初めはそう思っていたのですが、日差しが徐々に強くなり、少し暑くなってきました。
防風パーカーを脱ぎ、少しするとフリースも脱いでザックにしまいました。
高山は遮るものがないので、日差しがそのまま降り注いできます。
草花や岩までもがキラキラと日光を反射して、まぶしいくらいの快晴に恵まれました。
しばらく緩やかな道が続いていましたが、どうもいつもよりも息切れするように感じます。
やはり空気が薄いのかな、などと考えながら、途中の山小屋を通過して、少しずつ高度を上げていきます。
ゴロゴロと大きな岩の道になり、山頂の少し下の山小屋も通過。
頂上まではもうすぐです。
強くなってきた風にザックを持っていかれないように気をつけながら、慎重に登ります。
山頂へ出ると、そこには乗鞍神社本宮がありました。
360度から吹き付ける強い風に一気に体が冷え、また服を着こみます。
神社には白装束を着た神主さんらしき方がいて、お守りやお札などがたくさん並んでいました。
たくさんのお守りを見てしばらく悩み、登山お守りをいただきました。
しかし、私はこんなに着込んでいても寒くて震えているのに、白装束で何時間もこんなところにいて大丈夫なのだろうか?
と余計な心配をしてしまいました。
3026mの高度感にも軽く膝が震え、風で大きく揺らされるザックに必死で抵抗しながら、早々に下り始めます。
下り始めると、今度は落ちないようにという緊張と、強い日差しとで、また暑くなり始めます。
岩場はなんとか無事下りたものの、その後も急な下りが続き、小石のたくさんある場所で足を滑らせて一度転んでしまいました。
少し前を歩いていたご夫婦が振り返って、笑いながら「大丈夫?この辺小石が滑るでしょう」と声をかけてくれました。
「あはは、大丈夫です、ありがとうございます」と答えて立ち上がると、ご夫婦は頷いてまた前を歩いていきました。
ケガをしていないかと心配してくれたのでしょう。
転がりながらも、中腹の山小屋までたどり着き、少し休憩します。
周りにはお弁当を広げたり、バーナーでお湯を沸かしてカップ麺を作っている人たちがいます。
(お腹空いたな…)
残念ながら今日はお昼は持ってきていません。
おやつに持ってきた柿の種やミックスナッツを食べて、一応持ってきたバーナーでコーヒーを淹れました。
今下りてきた乗鞍岳を見上げながら、これから登っていく人たちの姿をぼんやり眺めます。
眼下の斜面には雪が残っていて、アルペンスキーというものをやっている人たちがいます。
そういえば、バスターミナルに大きなスキーを抱えた人たちがいましたが、あの人たちでしょうか。
スキーで斜面を滑っては自力で上まで登り、を繰り返しているようでした。
みんないろいろな山の遊び方を思いつくなぁ、と感心してしまいました。
ふたたび畳平へ
そこからはほぼ平坦な大きな道を気楽に下っていきました。
遠くに畳平の建物や駐車場が見えます。
「ねえ、こんなにコマクサ」と言って写真を撮っている人たちがいました。
そっとどれがコマクサなのかを見ていると、ピンク色の花がそこら中に咲いていました。
(ほぅ、これがコマクサか)
高山植物のようです。
夏でもこんなに厳しい気候の中で、可憐な花を咲かせる植物たちの生命力の強さを見た気がしました。
畳平の近くまで来ると、ハイマツの草むらにカメラを構えた親子連れがいました。
後ろを通り過ぎようとすると、「しっ!ライチョウがいるよ」とお父さんの方が教えてくれました。
「えっ!ライチョウ!」
見たことがないのですが、いつか見たいと思っていたのです。
中学生くらいの男の子が「あっちに行った!」と指差す方を、しばらく3人で息をひそめて目を凝らしていましたが、結局見つけられませんでした。
親子と別れ、無事畳平に到着です。
畳平で昼食を取るつもりでしたが、食堂はものすごく混んでいました。
バスは臨時便を出すほど混んでいるようで、早朝の静けさが嘘のようでした。
帰りのバスの行列に並び、満席のバスで1200mまで一気に山を下ります。
昨日泊った宿のある温泉街に着き、ターミナルのレストランで遅い昼食をとりました。
「飛騨牛の朴葉味噌焼き」という現地の料理があったので、少し奮発してそれを注文しました。
おいしい食事で初めて尽くしの登山旅の緊張も緩み、帰りの高速バスをゆっくり待って帰路につきました。
お土産を悩んで結局買いそびれてしまったので、諏訪湖のサービスエリアでお菓子の「雷鳥」を買いました。
激痛
家に帰りつくころ、目に違和感を感じました。
悲しくもなんともないのに涙がぽろぽろと出てきて、ついには痛みで目を開けていることができません。
高速バスから地元の路線に乗り継ぎ、自宅近くのドラッグストアで泣きながら目薬を探します。
たまたま近くにいた店員さんに見られてぎょっとされてしまいました。
ここは誤解を解くためにも正直に話そう、と、「すみません、目薬どこですか…目が痛くて…」と聞きました。
すると店員さんに、「なにか目に入ったのか、なぜそうなっているのか心当たりはありますか」と聞き返され、今日登山から帰ってきた、3000mを超える山に登ってきた、と答えました。
店員さんは「日焼け、ですかね。目も強い紫外線で焼けてしまいます。強い紫外線を浴び続けると白内障になっていまいますよ」と、目の日焼けにも良いという目薬を出してくれました。
相変わらず涙が止まらない状態で片目ずつなんとか開けながら会計をして、お礼を言って家に帰りました。
目薬をさすと、さらなる激痛です。
が、少し経つと痛みがマシになったような感じになりました。
ぐったりしながら、お風呂に入りました。
なんと、お風呂でも激痛が…!
首の後ろ側が真っ赤に焼けており、ぬるいシャワーを当てるだけでも激痛が走ります。
実は、家から日焼け止めを持っていくのを忘れてしまい、塗らなかったのです。
タオルでおさえるように水分を拭き取って、皮膚がこすれないように気をつけながら服を着ました。
目の方も心配だったので、寝る前に目薬をもう一度差して、涙をこぼしながら寝ました。
翌日
昨日よりはだいぶマシにはなっていましたが、首をすっかり黒く焼いてしまいました。
目の方は、まだ充血はしているものの、痛みはかなりマシになっています。
高山の紫外線をなめていました。
一般的に、標高が1000m上がるごとに紫外線は10~15%ほど強くなるそうです。
3000mの快晴の日の紫外線をノーガードで数時間浴び続けていたわけで、そりゃ大変なことになって当然だよな、と自分の認識の甘さを反省しました。
今回の教訓は、森林限界より上へ出るような高山では特にですが、
- 日焼け止め
- サングラス
を持っていくことです。
特にサングラスは、それまで持っていなかったので慌てて買いに行きました。
これまでは低山ばかりを歩いていたので、たまにサングラスをかけている人を見かけても、なんで山の中でサングラスなんかかけているのかな、と不思議に思う程度でした。
が、今回、文字通り痛い思いをしてよくわかりました。
日焼け止めは、ザックに常に一つ入れておくことにしました。
休み明けにお土産の「雷鳥」を職場に持っていくと、「なんか懐かしい!昔からあるよね!」と好評で、あっという間になくなってしまいました。
箱に入っていた雷鳥の絵のカードを家に持ち帰り、壁に飾りました。
それを見ながら、次は日焼け対策をばっちりして行こうと誓いました。
雷鳥にも会えたらいいなぁ。
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